扉を開けると、そこには静かな宇宙が広がっている。
大げさかもしれないけれど、私にとってクローゼットは、ただの収納場所ではない。
その日の気分や、過去の記憶や、まだ来ていない未来までが詰まっている、小さな空間だ。
ハンガーに並ぶ服たちは、まるで星のようだ。
よく手に取るお気に入りは、いつも明るく光っている恒星みたいで、
しばらく着ていない一着は、遠くで静かに瞬いている。
あの日勇気を出して買ったワンピース。
セールで迷いながら選んだニット。
試着室の鏡の前で、少しだけ背伸びした気持ちを思い出すジャケット。
服には、値札よりも、思い出のほうが強く縫い込まれている気がする。
「今日はどの自分でいこうか」
朝のクローゼットの前は、静かな会議の時間だ。
元気に見せたい日。
やわらかく過ごしたい日。
誰にも気づかれなくていいから、少しだけ自信を持ちたい日。
同じ私なのに、選ぶ服で、輪郭が少し変わる。
服は変身ではなく、調整なのかもしれない。
心の温度に合わせて、布を一枚重ねる。
そんな感覚だ。
流行はたしかに外の世界で回っている。
けれど、私のクローゼットの宇宙は、私の時間で回っている。
誰かの「正解」よりも、昨日の自分と今日の自分の間にある、小さな納得のほうが大切だ。
ときどき整理をしながら思う。
もう着ない服を手放すとき、それは星が役目を終える瞬間みたいだと。
さみしさはあるけれど、空間が少し広がる。
そしてまた、新しい星を迎える余白ができる。
クローゼットの中の小さな宇宙。
それは派手ではないし、誰かに見せるものでもない。
でも確かに、私を支えている空間だ。
今日も扉を開ける。
そこには、無数の選択肢と、少しの勇気が並んでいる。
私はその中から一着を選び、静かに一日をはじめる。
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