2026年2月26日木曜日

クローゼットの中の小さな宇宙

扉を開けると、そこには静かな宇宙が広がっている。
大げさかもしれないけれど、私にとってクローゼットは、ただの収納場所ではない。
その日の気分や、過去の記憶や、まだ来ていない未来までが詰まっている、小さな空間だ。

ハンガーに並ぶ服たちは、まるで星のようだ。
よく手に取るお気に入りは、いつも明るく光っている恒星みたいで、
しばらく着ていない一着は、遠くで静かに瞬いている。

あの日勇気を出して買ったワンピース。
セールで迷いながら選んだニット。
試着室の鏡の前で、少しだけ背伸びした気持ちを思い出すジャケット。
服には、値札よりも、思い出のほうが強く縫い込まれている気がする。

「今日はどの自分でいこうか」
朝のクローゼットの前は、静かな会議の時間だ。
元気に見せたい日。
やわらかく過ごしたい日。
誰にも気づかれなくていいから、少しだけ自信を持ちたい日。

同じ私なのに、選ぶ服で、輪郭が少し変わる。
服は変身ではなく、調整なのかもしれない。
心の温度に合わせて、布を一枚重ねる。
そんな感覚だ。

流行はたしかに外の世界で回っている。
けれど、私のクローゼットの宇宙は、私の時間で回っている。
誰かの「正解」よりも、昨日の自分と今日の自分の間にある、小さな納得のほうが大切だ。

ときどき整理をしながら思う。
もう着ない服を手放すとき、それは星が役目を終える瞬間みたいだと。
さみしさはあるけれど、空間が少し広がる。
そしてまた、新しい星を迎える余白ができる。

クローゼットの中の小さな宇宙。
それは派手ではないし、誰かに見せるものでもない。
でも確かに、私を支えている空間だ。

今日も扉を開ける。
そこには、無数の選択肢と、少しの勇気が並んでいる。
私はその中から一着を選び、静かに一日をはじめる。

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