お店の中では、なぜか自分が少し素敵に見える。
照明がやさしい。
マネキンも完璧。
「いけるかもしれない」と思ってしまう。
手に取ったのは、今年らしい一枚。
店員さんもにこやかに言う。
「お似合いになると思いますよ。」
その一言で、心はもう半分レジに向かっている。
そして、試着室へ。
カーテンを閉めた瞬間、世界は静かになる。
ここは戦場だ。
着てみる。
鏡を見る。
……あれ?
さっきの“いけるかもしれない”はどこへ?
角度を変える。
少し姿勢を正す。
お腹を引っ込める。
「うん、これは自然な立ち姿です」と自分に言い聞かせる。
思っていたシルエットと、現実のシルエット。
理想と今の私が、鏡の中で軽く会議を始める。
議題はひとつ。
「本当に似合っているのか?」
でも不思議なことに、
全部がダメなわけじゃない。
「あ、意外とこの色はいいかも。」
そんな発見もある。
試着室は残酷だけど、正直だ。
そして少しだけ、やさしい。
今の自分をちゃんと教えてくれる。
結局、その服はハンガーに戻した。
でも代わりに、もっとしっくりくる一枚を見つけた。
試着室で見るのは、現実だけじゃない。
今の自分と、これからの自分。
カーテンを開けるとき、
少しだけ大人になった気がする。
そして心の中でつぶやく。
「今日もいい勉強でした。」
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